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人工心肺に用いる静脈リザーバー容量の計測技術の開発

​人工心肺は人間の心臓と肺の機能を代行する生命維持管理装置です。臨床工学技士は人工心肺を操作する専門職です。その際、臨床工学技士は人工心肺システムの一部である静脈リザーバーの液面を目視しながら、患者の血管内ボリュームをコントロールしています。その容量の適切な調節は手術そのものに影響するだけではなく、空気の誤送を未然に防ぐための体外循環における安全性の担保となる重要な手技の一つです。このことから、臨床工学技士は絶え間なく液面レベルを監視する必要がありますが、実臨床下では、臨床工学技士は静脈リザーバーに付してあるメモリを読み取り「おおよそ」の容量を目視しているのに過ぎないことから、「正味の」血管内ボリュームの厳密な管理は困難でした。

  それにもかかわらず、静脈リザーバー容量は人工心肺システムにおけるリアルタイムモニタリング項目(例えば、送血流量、回路内圧、体温等)として採用されていません。これまで、技術的・学術的観点から静脈リザーバーの容量を精確かつリアルタムにモニタリングする方法がありませんでした。

  静脈リザーバーはポリカーボネート製で透明な筐体であり、その外形は血液容量によって変形しません。つまり、血液容量と(ある基準からの)液面の高さは常に一定の関係にあると言えます。このことを利用して、静脈リザーバーの筐体上部から非接触的に血液面高さを計測することができれば「血液面距離-血液容量」の検量線を描くことができるのではないかと思い至りました。液面の距離を常に計測するのみという極めて簡便な手法により、静脈リザーバー容量の精確な定量評価が実施できると考え、静脈リザーバー容量の新たな計測技術の開発に取り組みました。

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​成人用2種類と小児用1種類の静脈リザーバーを用いて、その上方からレーザ変位計によって血液面距離を計測し、距離と容量の関係性を明らかにしました。(下図)

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 次に、臨床において、静脈リザーバーの血液面は絶えず変化しています。そこで、新たに開発した計測技術がダイナミックに変動する血液面を検出し、血液容量を計測できるかを検討しました。

  血液面を一定流量で変化させたときの容量の時間変化(成人用、小児用)は、流量から算出した理論値と良好に一致していました(下図)。このことから、経時的に変化する血液容量の推定に関して本計測技術が強力なモニタリングツールとなることが明らかとなりました。

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私たちの開発した計測技術によって、血液面の距離を計測することだけで静脈リザーバーの血液容量を推定することが可能になりました。

​今後は、人工心肺の自動運転に本計測技術を応用したいと考えています。

​本研究の一部は、公益財団法人JKA 競輪の補助を受けて実施しました。

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